2020年の『カラオケ行こ!』の続編、『ファミレス行こ。』の下巻が最近出た。2026年3月12日はつばーい。
ちょうどいい機会だったので『カラオケ行こ!』から通して読んだ。映画は観ていたんだけれど、読んでなかったんだよね。映画は綾野剛がハマってたね。すぐLINEしてくる綾野剛ヤクザが怖くてかわいいね。
『カラオケ行こ!』は、マンガだからこそ飲み込みやすい設定をうまく動かしていて、とっても面白いマンガ。変声期を迎えようとしている合唱部の少年が、どうしても歌がうまくならないといけないヤクザ(なにそれ)にねだられて歌の練習に付き合わされるという、私がその少年だったらおしっこ漏らし続けちゃうだろうなっていう恐ろしい設定を、コメディタッチに微笑ましく描いていた。
繊細さを感じる絵柄の使い方も巧みで、クライマックスではとてもエモーショナルな展開を効果的に見せていた。マンガのマンガらしさをうまく使ったいい作品だったよね。あと『紅』という曲の使い方とかも、ばつぐーん!
だからこそだとは思うのだけれど、そうやってマンガっぽい作法で生み出されたキャラクターのその後を、マンガっぽさから少し解き放とうという試みが、続編の『ファミレス行こ。』ではなされていた。
主人公は引き続き聡実。前作では中学生だったが、大学へ進学しすっかり大人っぽくなったみてくれ。テンション低めなたたづまいで深夜のファミレスバイトに勤しんでいる。ヤクザの狂児とはカラオケ訓練からだらりと関係が続いていて、狂児が仕事で東京に来た際にはちょっと高いごはんをご馳走してもらったり、羨ましいぜ。
でも聡実は何か悩んでいる。このまま狂児とこんな付き合いしていていいのかなと。ヤクザだし?いつまでも面倒見てもらうってのも大人としては面倒くさいだろうし?だって家族でもないし?でも付き合い長いし?てかそもそもうちらって、どういう関係なの?ってこんな面倒くさいこと考えてる自分ってダルくね?みたいな、大学生らしい健全な葛藤をしている。というか、させている。
前作から作品のトーンはややシリアスになり、淡々とした派手さのないエピソードを重ねていくような作りになっている。サクッと簡潔に終わる物語ではなく、どちらかというと群像劇のようなスタイルで、ファミレスに夜中作業をしに来る漫画家や、聡実をつけまわす謎の記者などのエピソードを挟みつつ聡実と狂児の物語が、上下巻にわたって描かれる。そういった物語にすることによって、子供と大人のはざまにいるような聡実という青年を相対的に描き、彼のほのかな変化を読者が感じられるような作りになっている。
のだけれど、これがあんまりうまくいっていないと思うわけですのよ。
前作の狂児というキャラクター(や彼を取り巻く環境)が、あまりに都合のいいマンガ的な「ヤクザ」キャラだったことへ、作者が真面目に向き合いたかったのかな、と思わざるを得ない。今作の狂児は東京出張の多い単なるビジネスマンみたいな感じで、それはまあ、実際のヤクザの幹部としてはまあ有り得そうな造形なのかなと思わせるような、嘘っぽくない(マンガ的なヤクザではない)キャラクターになっている。なってはいるのだけれど、これによっていろいろ齟齬が生じている。
大学生の聡実は、ヤクザである狂児と今後どう付き合っていけばいいか葛藤している。聡実としては、ぐるぐる何周も考えてひとりで面倒くさい悩みと真面目に向き合っている。いうてヤクザと仲良くしてるのどうなん?と。でも今作の狂児の描写には反社会的な活動が一切なく、先にも述べた通りビジネスマンみたいな感じ。なので聡実のそういった葛藤は、作者によって用意されているだけの問題になっている。読んでる限り別に気にしなくてよくね?という気持ちになる。
難しいのは、これが聡実の青臭い空回りとしても描いている点で、なので最初からそんな問題はないのに悩んでてかわいいね、みたいな単純な読み方もできる。でもそうだとしたら、強そうなヤクザにいつまでも甘え護られている聡実の現状を肯定することになり、それこそ都合のよいマンガらしいマンガになってしまう。断っておくと、私はマンガらしいマンガで何も問題はないと思う。じゃあ、じゃあさ、最初からさ、今作はこんなスタイルで描く必要はなく、前作と同じようなノリでやればよかったじゃん?もっと楽しげな感じでさ。聡実と狂児が仲良くしてたらもう楽しいんだし。
しかし本作はそうはしたくないぞ、というところから始まっている。前作で生まれたキャラクターたちのその後を、嘘っぽくなく丁寧にたどってみたいという志を感じる。タイトルが前作の「!」から「。」に変わっているところから、そういうコンセプトがうかがえる。
結局、本作は最後までこの2人の関係にその種の答えを用意していない。まあそれはいいと思う。何かはっきりしない関係が続くことは、私たちにだってありふれたことだし。けれども狂児にとって、聡実のうちに秘めたつもりのそういった葛藤は、ふつうに透けているはずで、年長者としてなにかしてやれよと思わずにはいられなくない?飯おごる以外にさあ!
2人の関係においては、本作ではほとんど聡美の主観で描かれる。なので物語的にも2人の今後の関係について委ねられているのは聡実側のように見える。けれども状況的に、普通に考えて、2人の関係をどうこうできるのは狂児側でしかない。それは前作がそうであったように。
そして2人の関係を維持したがってるのは狂児だ。どう考えたって狂児次第なのに、けれど彼がどう考えているのかが全く描かれない。そればかりか「聡実くんはどうしたいん?」とかキモいことを投げかけ始める。俺はなんだっていいんだよ、とかいう態度をとっているわりに、聡実の脅威となる存在をこっそり遠回しな手を使って排除する。こそこそメンテを欠かさないところ、もう怖いっすよ。そういうものが描きたかったの?
それは、いささか歪んだ関係性になってはいませんか?なんか、実写邦画みたいな淡々とした人間描く系で文芸感だしてりゃごまかせると思っていませんか?そんなことないと、私は思いますね〜。でも、続くんだと思うし、続き次第なところでもあるかもなあ。
おしまい。